著 者:水谷 驍(みずたに たけし)
単行本:46判上製 252ページ
ISBN-13:978-4806807049
発売日:2018/02/14
2300円+税
ジプシーとされたさまざまな人間集団の実体が科学的に解明されて、それが歴史学や社会学、文化人類学その他の学問的観点から本格的に考察されるようになったのは一九七〇年前後以降のことである。欧米で多くの調査と研究が蓄積されて「インド起源説」に根本的な疑問が投げかけられ、これを否定する新しい科学的なジプシー論が提起されるようになった。「パラダイムの転換」(イタリアのジプシー研究者ピアセーレ)とも評される展開である。しかし日本では、こうした新しい科学的な議論はほとんど顧みられることなく、いまに至るもグレルマン流の旧態依然たるジプシー論が横行している。(はしがきより)
著者
水谷 驍(みずたに たけし)
1942年生まれ。東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。ポーランド現代史/ジプシー史。
[著書]『ポーランド「連帯」 消えた革命』(柘植書房、1995年);『ジプシー 歴史・社会・文化』(平凡社新書、2006年)。
[主要編訳書]『ポーランド[連帯]の挑戦』(柘植書房、1981年[共編訳]);レフ・ワレサ『ワレサ自伝−希望への道』(社会思想社、1988年[共訳]);ボリス・カガルリツキー『モスクワ人民戦線 下からのペレストロイカ』(柘植書房、1989年[共訳]);ジョゼフ・ロスチャイルド『現代東欧史:多様性への回帰』(共同通信社、1999年[共訳]);デーヴィッド・クローウェ『ジプシーの歴史 東欧・ロシアのロマ民族』(共同通信社、2001年);アンガス・フレーザー『ジプシー 民族の歴史と文化』(平凡社、2002年);イアン・ハンコック『ジプシー差別の歴史と構造 パーリア・シンドローム』(彩流社、2004年);ニコル・マルティネス『ジプシー』(白水社文庫クセジュ、2007年[共訳])
目次
はしがき 3
序章 他者による歴史 15
一 空想的起源説 15
二 グレルマンの「インド起源説」と「正史」の形成 19
三 パラダイムの転換:一九七〇年代以降のジプシー研究 25
四 ジプシー研究の「風土」 34
第一章 バルカン半島にて 41
一 アトス山のアヅィンカニ 41
二 ビザンツ世界のエジプト人 47
三 モドンのロミティ 52
四 コルフ島のキンガヌス 56
五 ルーマニア両公国のツィガニ奴隷 58
第二章 小エジプトから来た巡礼 67
一 最初の目撃証言 67
二 「ジプシーの黄金時代」 78
三 一五世紀のヨーロッパ 80
第三章 排斥と迫害:中世から近世へ 89
一 「黄金時代」の終わり 89
二 ジプシー像の変化:「諸民族の人間の屑」 92
三 迫害と排斥へ 101
四 過渡期ヨーロッパ社会の構造的問題 107
第四章 グレルマンのジプシー論 117
一 グレルマン『ジプシー論』 117
ジプシー民族の特徴 121
インド起源 126
二 創造された民族、想像された原郷 129
三 ジプシー論の支配的パラダイム 136
四 言語学的起源論の限界 144
第五章 「高貴なる野蛮人」:ロマン主義のジプシー 149
一 ジョージ・ボロー:「ジプシー民俗の生き字引」 149
二 ボローのジプシー像 156
三 ボローとジプシー 162
四 ロマン主義のジプシー像とジプシー研究 170
第六章 世紀末の「ジプシー」大移動 179
一 新しい遊動民集団の登場 179
二 実体と起源:「移民の世紀」 185
三 ジプシー排斥と遊動民規制 191
第七章 ナチス政権のジプシー政策 197
一 ナチス政権によるジプシー大虐殺(=ポライモス) 198
二 ドイツにおけるジプシー規制の歴史 203
三 ナチス政権の「ツィゴイナー」概念 210
終章 「正史」を超える 219
インド起源 219
カツィベロス(ザルつくり) 221
シンティとロマ 226
ロマニ語(ジプシー語) 230
あとがき 235
主要参照文献一覧 239